2024年11月23・24日(金・土)、東京大学安田講堂にて、東京フォーラム2024が開催されました。
Tokyo Forumについて:東京大学は、2019年から韓国・崔鐘賢学術院(Chey Institute for Advanced Studies)と共同で国際会議「Tokyo Forum(東京フォーラム)」を開催しています。本イベントでは、第一線の研究者、政策決定者、経営者など世界各国の知性・リーダーが一堂に会し、講演やセッションを通じて議論し、提言します。
東京フォーラムの1日目(11月23日(金)15:50‐16:50)には、ジェンダード・イノベーション(GI)の重要性とその科学技術への影響について議論する、パネルディスカッション1「ジェンダード・イノベーションの描く未来」が行われました。このセッションでは、GIの提唱者ロンダ・シービンガー先生をはじめ、韓国と日本の識者や国際ジャーナル編集者とともに、ジェンダーの視点を取り入れる研究・教育の重要性や、GIがもたらす未来の科学のあり方、ジェンダー教育の必要について議論しました。
オープニング
まず、東京大学教育学研究科教授 で、多様性包摂共創センターの兼務教員でもある、隠岐さや香先生により、セッションの目的およびセッションの流れに関する説明がありました。
1.スタンフォード大学教授であるLonda Schiebinger(ロンダ・シービンガー)先生
ロンダ・シービンガー先生は、スタンフォード大学歴史学科ジョン・L・ハインズ科学史教授で、「科学、保健・医学、工学、環境学分野におけるジェンダード・イノベーション」プロジェクト創始者です。「科学と技術におけるジェンダー」研究の国際的な先駆者であり、国連、欧州議会、多くの研究助成機関で講演活動を展開しています。
ロンダ先生は、GIの目標を説明し、実際の研究事例を挙げながら、セックスやジェンダー、交差分析の創造的な力が、科学、保健・医学、工学、環境学分野における発見や革新にどのようにつながるのかについてお話しされました。そして、研究開発において性差を適切に考慮することや、ジェンダーだけでなく、国籍やセクシュアリティなど、他の交差する部分まで網羅することの重要性について説明されました。
2.ネイチャー誌のMagdalena Skipper(マグダレーナ・スキッパー)先生
マグダレーナ・スキッパー先生は、ネイチャー誌の最初の女性編集長であり、2018年には、ネイチャー社とエスティローダー社と協力して、科学界の女性のための世界的な賞を立ち上げました。
マグダレーナ先生は、これまでのネイチャー誌において出版されたジャーナル記事から見えてくるSTIおよび医療(薬学)領域における女性研究者のニーズについて説明されました。また、セックスやジェンダーの視点を取り入れることがもたらす科学・エンジニアリングの発展につながるとされているにもかかわらず、まだ十分に活躍の場が整っていないことについてお話しされました。そして、科学領域における女性研究者、グローバルな背景をもつ研究者の活動を促すためのヒントとして、教育機会の拡大の重要性について説明されました。
3.韓国科学技術ジェンダード・イノベーションセンター(GISTeR)センタ長のイ・ヘスク先生
イ・ヘスク先生は、韓国科学技術ジェンダー革新センターであるGISTeR(Korea Center for Gendered Innovations fr Science and Technology Research)のセンター長であり、韓国YWCAによる第22回韓国女性指導者賞を受賞しました。
イ先生は、韓国におけるGI推進の歴史に伴うGISTeRの設立について説明され、ジェンダー問題への注目やGI推進を促す背景として、法的根拠(枠組み法の改正)の重要性についてお話しされました。また、研究資金提供機関や科学ジャーナル、そして研究評価の3側面から、世界においてGIに関する認識を高めるアクションやGIを効果的に推進するための具体案をもとに、GISTeRが実際に取り組んでいる活動とその成果について紹介されました。
パネルディスカッション
3名の登壇者の講演を受け、東京大学理事・副学長の相原博昭先生から、大学におけるGI推進を視野に入れた教育としては何が考えられるのか、実際の取り組みの事例は何があるかという問いがありました。
その問いに対し、学生や若い研究者に対するメンタリングやファンディングのサポートが必要であり、今あるリソースをフルに扱うことが大事であるという意見が出ました。また、実際の研究事例を用いつつ、性差におけるバイアスが逆にチャンスとなり、変革もたらすことや、社会と個人のために研究を進めていく姿勢の重要性を教育の中で伝えていくことが求められるという意見も出ました。
一方で、学生や若い研究者たちのGIの重要性への気づきや興味関心の維持を促すことが今後の課題として挙げられました。また、研究の複雑性(交差性)を統合した研究デザインを組み立てていくといった、方法論的な難しさについて今後も議論を重ねていく必要性があるという意見も出ました。そして、現状をチャンスとしてとらえ、より複雑な交差性を重視するためのざまざまなアプローチやシステムの考え方(システムシンキング)の重要性を再度確認しあう場となりました。