(ポスター説明) タイトル:インクルシーブな実験室環境の整備 応募団体:東京大学先端科学技術研究センター インクルーシブデザインラボラトリー ■目的は、障害のある人の理工系分野参加を支援するしくみづくり。 左が<研究>、右が<実践>と分かれている。 <研究>には、「@基礎的環境整備」「A合理的配慮」が含まれている。 <実践>には、「B科学実習」と書いてあり、<研究>の「@基礎的環境整備」「A合理的配慮」とそれぞれ相互作用している矢印が書かれている。 (校正者注:「B科学実習」の周りに「障害のある生徒」「普通校教員」「専門家(リハビリテーション、アイシーティー、特別支援学校、STEM研究者)」が、それぞれが「B科学実習」に向かう矢印でつながっている。 ■続いて、3つのアプローチが紹介されている。 @アクセシブル実験室 右上の写真には、研究室の全景と、アクセシブルな什器をいくつか示しています。一部紹介すると、左手には、昇降式流し台の写真があります。この流し台は、障害当事者とデザイナーが共同で取り組んだインクルーシブデザインの成果です。 製品を作るプロセスは、左から「アイデア」「試作版1」「試作版2」と進み、最後に「完成版」が示されています。すべての試作版について、障害当事者(ここでは車いすユーザー)に実際に試してもらい、評価や意見をもらった結果、いくつかの改善点が明らかになしました。 例えば、車いすで流し台に近づけないという問題です。これは、シンクの下に車いすの足が収まるスペースがないことが原因でした。また、体格によって車いすユーザーに最適な高さが異なるため、シンクの天板を電動で昇降できるようにしました。 車椅子ユーザー同士、行う作業によっても、使いやすい高さが異なるので、電動昇降機能をつけています。 また、手すりにつかまって立ちたい人がいるため、天板の縁に「返し」の構造を付け、つかまれるようにしています。 (校正者注:昇降式流し台の改善点が箇条書きでまとめられている。) 障害者当事者との共同創造(インクルーシブデザイン) 1.車椅子で流し台に接近することができない→(右に進む矢印)シンク下部に足が収まるクリアランスを設ける。 2.リーチが短いため水栓を使うことができない→(右に進む矢印)手前で操作できるタッチレス水栓を採用する。 3.作業に応じて最適な高さが異なる→(右に進む矢印)高さを調整できる昇降式のシンクを採用する。 4.シンクにつかまって作業する→(右に進む矢印)天板の縁にハンドリングを設ける。 5.支援者と共同作業を行う→(右に進む矢印)幅の広いシンクを設ける。 右中央の写真では、緊急シャワーを示しています。 緊急シャワーは、研究室や薬品を使う場所では、法律で必ず設置しなければならないと定められています。しかし、一般的な緊急シャワーでは、ハンドルが高い位置にあり、車いすの人が届きません。 そこで、車いすの人でも使えるように、ハンドルの高さを低い位置に変更しました。さらに、緊急シャワーは1分間に70リットルの水が流れるため、床が水浸しになります。通常、10cmほどの金属製の壁で水をせき止めますが、これがあると車いすの人が中に入れません。 そこで私たちは、柔らかい止水壁を開発しました。塩化ビニールを丸めて高さ3cmほどの壁を作り、プールのような構造にしています。これは、車いすのタイヤでも乗り越えることができ、タイヤが通過した後は元の形に戻って水をせき止められます。 最後に、一番右にあるのは昇降式の実験テーブルです。ユニークな特徴として、円形である点が挙げられます。これは、コミュニケーションを円滑にするためです。 手話を使う人が参加する場合、長方形のテーブルだと、人が重なった場合、手話が見えなくなることがあります。しかし、円形のテーブルなら、すべての位置からお互いの様子が見え、手話の妨げになるものがありません。 もう1つの工夫として、車いすユーザーからの意見を取り入れ、テーブルの中央を回転台(ターンテーブル)にしました。これにより、実験器具を共有しやすくなります。     A実験作業の分析 これは、「合理的配慮」に当たります。理科の実験でも、日常生活と同じように支援技術が役立ちます。しかし、支援技術を開発するためには、障害のある人がどのような作業をするかを知る必要があります。理科の実験や大学での科学実験で行われる作業は、言語化されていないことが多いです。 そこで、支援を行うためのサポートとして、実験室で行う作業の分析を考案しました。 一番上の図は、作業分析の模式図です。例えば、「試薬の軽量」という作業は、3つの動作に分解できます。 薬さじを移動する 電子天秤に持って行き、薬さじを回転させて薬品を落とす 電子天秤の数字を読み取る それぞれの動作には、「持つ」「回転させる」「見る」といった具体的な動作が必要になります。 真ん中の2つ目の図は、東京大学教養学部の基礎科学実験の動画を分析対象にしたものです。この動画は解説付きでウェブサイトに公開されています。私たちは、この動画(合計約100分)に登場するすべての作業を分析しました。 動画を、作業ごとに分割し、すべての動画について作業の内容と実際の動作を特定しました。右側のグラフは、動作ごとの回数を表しています。「操作する」「入れる」「つまむ」「回す」といった動作が非常に多いことが分かりました。 一番下の図は、実験を支援するツールとして「建設的対話支援ツール」を示しています。 「建設的対話」とは、障害のある人への合理的配慮について、関係者が意見を交換し合う丁寧なプロセスのことです。この考え方を、実験の支援にも応用しました。 パネルAは、学生・支援室・教員の三者が、このツールを通じてコミュニケーションするイメージです。 パネルBは、ツールの画面キャプチャです。講義リストをクリックすると、その講義で行われる実験内容が作業ごとに表示されます。 その一部をクリックすると、パネルCのようなポップアップウィンドウが表示されます。 ここで動画が再生され、学生はその作業について「できる」「できない」「時間がかかるけれどできる」といった選択ができます。 加えて、教員や支援者が別のアカウントでこのウィンドウに入り、どのような支援が可能か、検討すべきかといった議論を行うことができます。このツールはオンラインアプリケーションを想定しているため、対面でなくても議論を進められる点が重要です。 B「科学実習」 これは、障害のある生徒を招いて行った実習についてです。 大学では、障害のある研究者が少ないのが現状ですが、そもそも小・中・高校の段階で、障害のある生徒が実験をする機会が少ないと言われています。 一方で、アメリカの先進事例では、集中的な実験体験が、その後の理工系分野への進学率を高めることが分かっています。 写真でお見せしているのは、今年の8月に行った「ひらめき☆ときめきサイエンス」という科研費プロジェクトでの科学実習の様子です。 自分の筋肉の筋電位を計測したり、ハエトリソウなどの植物が電気を流す現象を、障害のある生徒さん自身に実験してもらいました。 この実習のコンセプトは、「できるだけ自分の手で実験してもらうこと」です。もし自分でやることが難しい場合は、「どのような工夫ができるか、生徒やスタッフがその場で一緒に考える」というものです。 最後の写真で示しているのは、今年の3月に行われた「東大の研究室をのぞいてみよう」というプロジェクトと、先端研の「Do-itプログラム」での写真です。 この科学実習では、私たちスタッフと生徒さんに加え、リハビリテーション専門家、ICTエンジニア、特別支援教育の専門家にも参加していただきました。将来的には、障害のある生徒への指導を学びたい一般の教員にも参加してもらいたいと考えています。 参加者、見学希望者は随時募集中です。 (ポスター概要/日本語) タイトル:インクルシーブな実験室環境の整備 キーワード: バリアフリー、実験室、科学、STEMM、支援技術 伝えたいこと: 実験室の物理的なバリアや、実験に対する合理的配慮に関わる知識の不足が理由となり、日本では障害のある科学者がとても少ない。ほんグループではこれらの課題について、実験室のアクセシビリティや、実験の支援技術を行っている。障害のある生徒は義務教育で理科実験をする機会も少ないため、障害のある中高生に向けた科学実習を定期的に開催している。 どのような意識の変容をもたらしたいか: 科学や実験室におけるアクセシビリティのニーズ、障害のある人が科学に参加する権利についての認識 応募団体についての紹介: 障害当事者でもある研究者が関心のある企業とともにアクセシブルな実験室開発に取り組んでいる。障害のある中高生に向けた科学実習を定期的定期的に行っている。 氏名: 先端科学技術研究センターインクルーシブデザインラボラトリー(並木研究室) (ポスター概要/英語) Title: Inclusive Design in STEMM Laboratories Keywords: Accessibility, Barrier-Free, Laboratory, Science, STEMM, Assistive Technology What we want to convey: There is a significant underrepresentation of scientists with disabilities in Japan. This is primarily due to two factors: the physical barriers within laboratories and the lack of knowledge regarding reasonable accommodations for conducting experiments. Our group tackles these issues by focusing on laboratory accessibility and developing assistive technologies for experiments. Furthermore, since students with disabilities often have limited opportunities to participate in science experiments in compulsory education, we regularly organize science workshops for junior high and high school students with disabilities. The change in awareness we want to bring about: We aim to raise awareness about the need for accessibility in science and laboratories, as well as the right of people with disabilities to participate in science. Team/Project: Researchers with disabilities are collaborating with interested companies to develop accessible laboratories. We also regularly hold science workshops for junior high and high school students with disabilities. Name: Inclusive Design Laboratory, Research Center for Advanced Science and Technology, The University of Tokyo